生活保護を受けている方の相続放棄
1 生活保護を受けている方が相続放棄するのは違法なのか
生活保護を受けている方の中には、「遺産を相続すると、収入があるとみなされ、生活保護を打ち切られるのでは?」と考え、家族が亡くなった際に相続放棄を検討するという方も少なくありません。
他方で、「本当はもらえるはずの遺産をあえて放棄すると、何かしらの罰則があるのでは」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論として、生活保護を受けていても、相続放棄ができる場合はあります。
ここでは、生活保護と相続放棄との関係について説明していきます。
2 プラスの遺産がある場合は相続放棄が難しい
生活保護法の第4条1項によると、「その利用し得る資産を・・・活用すること」を条件として、生活保護費の受給を認めています。
参考リンク:厚生労働省・生活保護制度
つまり、自分が持っている財産や、取得可能な財産については、しっかりと活用し、それでも生活が難しい場合に、生活保護費の受給を認めるという法律になっています。
その観点からいうと、「遺産を相続できるのに、あえて遺産を放棄する」という行為は、生活保護法の趣旨に反する行為という一面があります。
また、生活保護法の第8条1項の、「保護は・・・その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」という規定の趣旨からも、やはりプラスの遺産をあえて放棄することは難しいといえます。
3 生活保護を受けていても相続放棄が可能なケース
生活保護を受給している方が相続放棄できる典型的なケースとしては、マイナスの遺産の方が多いという場合が挙げられます。
仮に、100万円の遺産があったが、200万円の借金も残されていたという場合、相続すれば、むしろ借金をすることになり、損をしてしまうということになります。
そのため、このケースのようにマイナスの財産の方が多いのであれば、相続放棄をしても生活保護法の趣旨には反しないということになります。
また、借金はないものの、売却が困難な畑や山林しか遺産がないという場合に、それらの遺産を受け継いでしまうと、その人は税金の支払いをすることになります。
遺産を売却して収入を得ることもできず、相続しなければ支払わなくてよかったはずの税金を支払うということは、むしろマイナスであると評価できます。
そういったケースであれば、相続放棄をしても、必ずしも生活保護法の趣旨には反しないといえます。
相続放棄の熟慮期間 単純承認したとみなされ相続放棄ができなくなる場合